「今度のマラソン、暑そうだけど目標タイムはどれくらい調整すべき?」
そんな疑問を持つランナーのために、マラソン攻略シミュレーターに気温補正機能を追加しました。学術研究に基づいた計算式で、レース当日の気温が予想タイムにどう影響するかを自動で計算します。
この記事では、新機能の使い方と、その背景にある科学的根拠を解説します。
気温がマラソンに与える影響は想像以上に大きい
「暑いと遅くなる」ことは感覚的にわかっていても、具体的に何分遅くなるかを把握しているランナーは少ないのではないでしょうか。
実は、気温によるパフォーマンス低下は学術的に詳しく研究されています。
研究でわかっていること
- 最適気温は7 〜 15℃(WBGT 5 〜 10℃)
- 最適気温を超えると、気温上昇に伴いパフォーマンスが低下
- 遅いランナーほど気温の影響を大きく受ける
特に3つ目のポイントは重要です。エリートランナーと市民ランナーでは、同じ気温上昇でも影響の大きさがまったく異なります。
科学的根拠:180万人のデータが示す気温とタイムの関係

今回の機能実装にあたり、複数の学術論文を調査しました。
主要な参考研究
| 研究 | データ規模 | 主な知見 |
|---|---|---|
| Ely et al. (2007) | 7大マラソン、36年分 | WBGT 5℃上昇ごとの低下率を算出 |
| El Helou et al. (2012) | 6大マラソン、180万人 | 最適気温は走力によって異なる |
| Racinais et al. (2022) | 1,258レース | WBGTが最も予測精度が高い |

180万人のフィニッシャーデータを分析した研究があるなんて、マラソンの科学はすごいですね。
走力別の低下率
Ely et al.の研究では、WBGT(湿球黒球温度)5℃上昇ごとの低下率を順位別に算出しています。
| ランナー層 | 低下率/5℃ | 目安タイム |
|---|---|---|
| トップ3 | 0.9% | 約2:10 |
| 25位 | 1.1% | 約2:25 |
| 50位 | 1.5% | 約2:40 |
| 100位 | 1.8% | 約2:50 |
| 300位 | 3.2% | 約3:00 |
サブ3ランナーは、エリートの3倍以上気温の影響を受けるという驚きの結果です。
なぜ遅いランナーほど影響が大きいのか?
- レース時間が長い → 高温に晒される時間が長い
- 体重あたりの発熱量が大きい → 体温調節の負担が増加
- ペース維持のための余裕度が小さい → 限界に近い状態で走っている
実装した計算式
複数の研究データを統合し、以下の計算式を導出しました。
気温調整の計算式
調整タイム = 基準タイム × [1 + 0.0001 × h^3.6 × max(0, T - 10)]
- h: 目標タイム(時間単位)
- T: 気温(℃)
- 10℃: 最適気温(これ以下では調整なし)
べき指数が3.6と大きいため、目標タイムが長いほど影響が急激に大きくなる特徴があります。
具体例:サブ3目標ランナーの場合
| 気温 | 予想タイム | 遅延 |
|---|---|---|
| 10℃(最適) | 3:00:00 | ±0 |
| 15℃ | 3:04:36 | +約5分 |
| 20℃ | 3:09:13 | +約9分 |
| 25℃ | 3:13:50 | +約14分 |
東京マラソンの平均気温は約10℃前後なので最適に近いですが、かすみがうらマラソン(4月)や北海道マラソン(8月)など、暖かくなる時期のレースでは要注意です。
新機能の使い方
使い方はとても簡単です。
0〜35℃で設定できます
数秒でシミュレーション結果が出力されます

シミュレーション結果(東京マラソン 10℃ vs 20℃)
同じサブ3目標でも、気温によってこれだけ差が出ます。
10℃の場合
- 予想タイム: 3:00:37

20℃の場合
- 予想タイム: 3:10:04
- 遅延: 約9.4分


約9分半の差は大きいですね。暑いレースでサブ3を狙うなら、そもそも走力に余裕が必要ということがわかります。
警告表示について
高温時には自動で警告が表示されます。
| 気温 | 警告レベル |
|---|---|
| 25℃以上 | ⚠️ 高温注意 |
| 28℃以上 | 🔥 危険 |
| 30℃以上 | 🚨 極めて危険(レース中止検討) |
この機能を使った賢いレース戦略
気温補正機能を活用すれば、より現実的なレースプランが立てられます。
1. レース選びの参考に
過去の気温データを調べて、目標達成しやすいレースを選びましょう。
1月〜3月初旬の大会は気温が低くてお勧めです。
一例を挙げると、
- 別府大分毎日マラソン(2月上旬): 平均約9℃
- 大阪マラソン(2月下旬): 平均約7〜10℃
- 東京マラソン(3月上旬): スタート時平均約8℃
2. ペース設定の調整
暑いレースでは最初から控えめなペースで入ることが重要です。
普段の感覚で突っ込むと、後半に大失速するリスクが高まります。シミュレーターで気温を設定し、調整後のペースを目安にしてください。
気温補正後のタイムを「この条件での実力発揮」と捉え、無理のない目標設定をおすすめします。
まとめ

- マラソン攻略シミュレーター v1.1.0で気温補正機能を追加
- Ely et al.など学術研究に基づく計算式を実装
- 遅いランナーほど気温の影響を大きく受ける(サブ3で約3.2%/5℃)
- 10℃が最適気温、それ以上で自動的にタイムを調整
- 高温時は警告表示で熱中症リスクも通知
暑いレースに出る予定がある方は、ぜひシミュレーターで現実的なタイムを確認してみてください。
参考文献
- Ely MR, et al. (2007) Impact of weather on marathon-running performance. Med Sci Sports Exerc. 39(3):487-493
- El Helou N, et al. (2012) Impact of Environmental Parameters on Marathon Running Performance. PLoS ONE 7(5):e37407
- Racinais S, et al. (2022) Effects of Weather Parameters on Endurance Running Performance. Med Sci Sports Exerc. 54(1):153-162
免責事項 この調整値は学術研究に基づく統計的推定です。個人差(暑さへの耐性、暑熱順化状態など)や当日のコンディションにより、実際のタイムは異なる場合があります。
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