マラソンランナーのためのカフェイン戦略:科学が示す「持久力パフォーマンスを2~4%向上させる」方法

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要点まとめ
• 用量:体重×3–6 mg/kg
• タイミング:スタート60分前 錠剤+25km / 35km 各50mg ジェル
• 効果:タイム短縮 約2〜4%・RPE低下
• 注意:胃腸・不眠・心疾患は慎重/医師相談。前日午後は断ち、本番前に練習で必ず検証
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1. カフェインが「効く」科学的根拠:ISSN論文の要約
「30kmの壁が超えられない」「レース終盤、どうしても足が止まってしまう」。 フルマラソンを走るランナーなら、誰もが一度はこんな悔しい思いをしたことがあるでしょう。
もし、その「あと一歩」を科学的に後押ししてくれる成分があるとしたら? その答えは、非常に身近な「カフェイン」です。これまで感覚的に「エナジードリンクを飲むと調子が良い」と感じていたかもしれませんが、カフェインがマラソンのパフォーマンスに与える影響は、感覚論ではなく、強力な科学的根拠によって裏付けられています。
この記事では、スポーツ栄養学の世界的権威である国際スポーツ栄養学会(ISSN)が2021年に発表した、この分野における最も信頼性の高い科学的見解の一つ「カフェインと運動パフォーマンスに関する公式見解[1]」を基に、マラソンランナーがカフェインを戦略的に利用し、自己ベストを更新するための具体的な方法を解説します。
2. 科学的根拠:なぜカフェインはマラソンに有効か?
ISSNは、カフェインを「トレーニングを積んだアスリートのスポーツパフォーマンスを向上させるのに有効である」と明確に結論付けています。特に、有酸素運動(エアロビック・エンデュランス)、つまりマラソンのような持久系スポーツにおいて、「最も一貫した中〜高程度の(moderate-to-large)恩恵」があると述べています。
マラソンに効く「2つの主要メカニズム」
カフェインが持久力を向上させる理由は、主に以下の2つの側面から説明されます[1]。
① 中枢神経系への作用(「つらさ」の軽減)
これが最も強力な効果と考えられています。 私たちが疲労を感じる原因の一つに、脳内で「アデノシン」という物質が蓄積することがあります。カフェインは、このアデノシンの働きをブロックします。
その結果、脳が感じる「つらさ」や「きつさ」(主観的運動強度:RPE)が軽減されます。マラソン終盤で「もう足が動かない」という脳からの指令を鈍らせ、「まだ行ける」という精神的な粘りを生み出します。
② エネルギー代謝への作用(「エネルギー切れ」の防止)
マラソン後半の失速(「30kmの壁」)の大きな原因は、筋肉内のエネルギー源である「グリコーゲン」の枯渇です。
カフェインは体脂肪の分解を促進し、エネルギー源として脂肪をより多く使うように体がシフトします。これにより、限りあるグリコーゲンの消費を節約でき(グリコーゲン・スパアリング効果)、レース後半までエネルギー切れを防ぐのに役立ちます。
3. カフェインでどれだけ速くなれるか?
では、具体的に何分縮まるのでしょうか? ISSNは、持久力パフォーマンスが「約2~4%向上する可能性がある」と述べています。
この数字を、具体的なランナー像に当てはめてシミュレーションしてみましょう。
- ランナー設定: 体重60kg
- マラソンタイム: 3時間00分00秒(180分)
- カフェイン戦略: 推奨量(180mg~360mg)を摂取
【ケース1】2%のパフォーマンス向上
180分×0.02=3.6分 3分36秒の短縮 → 新タイム: 2時間56分24秒
【ケース2】4%のパフォーマンス向上(最大限の効果が出た場合)
180分×0.04=7.2分 7分12秒の短縮 → 新タイム: 2時間52分48秒
3時間を切れるか切れないかの瀬戸際で戦っているランナーにとって、「3分36秒」の短縮は、サブ3の壁を余裕をもって突破できることを意味します。もし「7分12秒」も短縮できれば、とてつもないアドバンテージです。
4. フルマラソンのカフェイン戦略
用量は体重×3–6 mg/kg、合計6 mg/kgまで。製品ごとのカフェイン量は販売ページで確認。妊娠・授乳/心疾患/不眠体質は医師に相談。
具体的に「いつ」「何を」「どれだけ」摂取すれば良いのでしょうか。
基本原則:推奨量とタイミング
- 推奨量(マジックナンバー): パフォーマンス向上に最も効果的とされる摂取量は、体重1kgあたり3〜6mgです[1]。 (例:体重60kgなら180mg〜360mg)
- タイミング: カフェインは摂取後、約45~60分で血中濃度が最大になります[1]。
ステップ1:レース前(スタート60分前)
目的: レース開始時に血中カフェイン濃度をピークに到達させる。
推奨量(体重60kgの場合): 150mg 〜 250mg程度
推奨形態: 錠剤(無水カフェイン)
- メリット:
- 正確性: 「200mg」など正確な量を摂取できます。
- 純度: 糖質など余計な成分を含みません。
- 商品例:AkiRunおすすめは「トメルミン」。口で溶けて1錠あたり約167mgとスタート60分前に扱いやすい。
ステップ2:レース中(中盤〜終盤)
目的: 低下し始めた血中濃度を再度高め、中枢神経系への刺激(疲労感の軽減)を維持する。
推奨量:50mg 〜 100mg程度(レース前の摂取量と合わせて、総量が6mg/kg(360mg)を超えないように調整)
推奨形態: カフェイン入りエネルギージェル
- メリット: マラソンで必須のエネルギー源(糖質)とカフェインを同時に補給できます。これが最も現実的で効率的な方法です。
- 商品例:
- Mag-on(マグオン): 国内定番、少量カフェイン25mg配合で細かく刻みたい人向け。
- Winzone(ウィンゾーン):オレンジ風味はカフェイン50mg配合で使いやすい。
- Maurten(モルテン) Gel 100 CAF 100: カフェイン100mgと高含有量。
- 注意点: 製品によってカフェイン含有量が異なります(25mg~100mgなど)。自分が使うジェルの成分を正確に把握しておく必要があります。
【戦略モデル:体重60kg・サブ3ランナー】
- スタート60分前: カフェイン錠剤 200mg
- 25km地点(壁の前): カフェイン 50mg 含有ジェル 1本
- 35km地点(ラストスパート): カフェイン 50mg 含有ジェル 1本
- 合計摂取量: 300mg ( = 5mg/kg)
この戦略により、レーススタート時に血中濃度を最大にし、中盤と終盤に刺激を追加することで、42.195kmを通してカフェインの効果を持続させることが期待できます。
5. 副作用のリスク:
高用量のカフェインは、以下のような副作用を引き起こす可能性があります[1]。
- 胃腸障害(腹痛、吐き気、下痢)
- 動悸、手の震え
- 不安感、焦燥感
- 不眠
レース当日にこれらの症状が出たら、自己ベストどころではありません。必ず、本番に近い強度(レースペース)でのロング走や、30km走などで、「自分が決めた量とタイミング」を試し、体に異変が出ないかを確認してください。
6. カフェインに関するよくある質問(誤解と回答)
カフェインは身近な成分である一方、多くの誤解にもさらされています。ISSNの見解に基づき、これらの誤解を解いていきましょう。
Q1:カフェインは利尿作用が強いから、レース中に飲むと脱水するのでは?
A:間違いです。 確かにカフェインには軽度の利尿作用がありますが、ISSNは、運動中の3~6mg/kgの摂取が脱水を助長したり、水分バランスを崩したりするという科学的根拠はない、と結論付けています。
Q2:普段からコーヒーをよく飲む人(耐性がある人)には、効果がないのでは?
A:効果は期待できます。これは議論の多い点ですが、ISSNの見解は「カフェインの習慣的な摂取者であっても、パフォーマンス向上効果は依然として見られる」としています。
Q3:多く摂れば摂るほど効きますか?
A:明確な間違いです。 前述の通り、パフォーマンス向上のピークは3~6mg/kgです。それ以上、特に9mg/kg(体重60kgで540mg)を超える摂取は、パフォーマンス向上にはつながらず、深刻な副作用(動悸、吐き気、不安感)のリスクを急激に高めるだけです[1]。
7. まとめ
カフェインは、国際スポーツ栄養学会(ISSN)によって「持久力パフォーマンスを2~4%向上させる」と認められた、極めて強力なエルゴジェニック・エイド(運動能力向上補助剤)です[1]。
サブ3を目指すランナーにとって、これは3分半から7分以上ものタイム短縮に相当する可能性を秘めています。その恩恵を最大限に受けるには、正しい知識に基づいた「戦略」が不可欠です。
- 適量を守る: 体重1kgあたり3~6mg。それ以上は逆効果。
- タイミングを計る: レース60分前にメイン量を摂取し、レース中盤・終盤に追加する。
- 形態を選ぶ: レース前は含有量の正確な「錠剤」、レース中は糖質と同時補給できる「ジェル」が現実的。
- 必ずテストする: 本番でいきなり試さず、必ず練習で副作用が出ないかを確認する。
科学の力を正しく利用し、トレーニングの成果を100%引き出す。それが、自己ベスト更新への最後の鍵となります。




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