【論文紹介】マラソンの「効く練習」——科学的データが示すサブ4/3.5/3の練習指標

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マラソントレーニングは結局何が効果的なの?そんな質問に「科学的な答え」を示してくれる、すごい論文を紹介します。 今回は、2020年に発表された「マラソンのタイムを決定する“練習要因”の評価——メタ分析+メタ回帰」[1]という論文を徹底解説します。経験則が割れる『どれをどれだけ積めば速くなる?』を、系統的レビュー+メタ回帰で一次情報から確認。サブ4/3.5/3の“現実ライン”だけ持ち帰ってください。

忙しい人向けの3行まとめ

  • 過去の研究85本(計8,945人)を統合したメタ分析+メタ回帰
  • 量×頻度×長さ」はいずれも増えるほどタイム短縮方向(相関)。
  • サブ4の平均像:週44km/ピーク63km最長25km/週3–4回/平均トレペース=レース比97%

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目次

どんな研究?

この論文の何がすごいのか? それは、たった一つの研究ではなく、過去に行われた85本もの研究を集め 、そこに含まれる合計8945人のランナーの膨大なデータを、「メタ分析」という強力な統計手法で統合した「研究の研究」である点です 。

分析したのは、ズバリ、マラソンのタイムに「効く練習」とは?

マラソン大会でスタートした瞬間のイメージ写真

結論から言いましょう。 この研究は、分析対象となった以下の7つの指標すべてが、「量や頻度やペースが上がるほど、タイムが速くなる」という非常に強い関連性を示したのです 。

  • 平均週間走行距離
  • 週間のランニング回数
  • 週間の最大走行距離(ピーク時の練習量)
  • 32km以上のランニング回数
  • 平均トレーニングペース(増加=ゆっくり)※
  • 最長のランニング距離(いわゆるロングラン)
  • 週間のランニング時間

最もタイムと関連が強かった練習は?

では、これらの中で、特にマラソンタイムとの関連が強かったのはどれでしょうか? この論文では、「R2(決定係数)」という値を使って、各指標がどれだけタイムの変動と強く関連しているかを示しています。

そして、その結果は非常に興味深いものでした。

朝日に向かって長距離走中のランナー

1位:32km以上のランニング回数 (R2=0.81) なんと、「トレーニング期間中に32km(20マイル)以上のランニングを何回行ったか」が、タイムとの関連性が最も強いという結果でした 。 これは、いわゆる「30km走」の重要性を強く示唆しています。単に「長い距離を1回走った」ことよりも、「32kmを超えるような超長距離走を複数回こなしたこと」が、レース本番のパフォーマンスと強く関連しているようです。

2位:週間の最大走行距離 (R2=0.80) 僅差の2位は、トレーニング期間中に最も走り込んだ週の走行距離でした。いわゆる「ピーク時」の練習量が、レース結果と強く関連していることが示されました 。

3位:週間のランニング時間 (R2=0.78) 「距離」だけでなく、「どれだけの時間走ったか」も非常に重要であることがわかります 。

ちなみに、「平均週間走行距離」もR2=0.70と高い関連性を示しています 。

【実践編】サブ4/3.5/3に必要な「練習量の目安」

さて、ここからが本題です。 論文のSupplemental Table 4は目標タイムを達成するために必要なトレーニングの「平均像」を具体的に示してくれています 。下表は論文のタイム別の平均値を、ブログ用に読みやすく再整理したもの。

「平均トレーニングペース比」はペース換算でサブ3、サブ3.5、サブ4で「5:31/km〜5:45/km」と奇しくも同程度のペースとなっています。 これは、速いランナーほど週間距離が増え、全トレーニングに占める遅いジョグの割合が増えることによるものと考えられます。

また、サブ4の「最長走が25.2km」というのも意外かもしれません 。 これについて著者たちは、「我々の分析結果は、4時間00分を達成するランナーは、トレーニング期間中に32km以上のランニングを完了する必要はないことを示唆している」とまで述べています 。

目標タイムとトレーニング指標の関係(Supplemental Table 4を再整理)

スクロールできます
目標平均週間距離週間走行時間ピーク週距離最長走32km超の本数週あたり回数平均トレペース比
サブ4(4:00)44.2 km4.5 h63.0 km25.2 km任意(0〜1)3.2 回97%(5:31/km)
サブ3.5(3:30)68.8 km6.4 h102 km30.6 km3.1 本5.5 回115%(5:45/km)
サブ3(3:00)107 km8.2 h141 km35.9 km7.9 本7.9 回134%(5:42/km)
マラソン大会ゴール後にタイムを確認しているランナー

Q&A(この論文を読む上での「注意点」と「限界」)

著者たちは「限界」についても誠実に言及しています 。この点を理解しておくことが、データを盲信するのではなく、賢く活用するために非常に重要です。

Q. インターバルやテンポ走の効果は無いの?

この研究で分析できたのは、主に「走行距離」や「頻度」といった「量」に関する指標でした 。一方で、「インターバル走」「テンポ走」といった「練習の質」に関するデータを報告している研究はほとんどありませんでした 。当然、マラソンタイムは「質」も重要ですが、残念ながら今回の分析では明らかにされていません。

Q. 男女差は無いの?

分析対象となったランナーのうち、女性はわずか25%でした 。そのため、男女別のトレーニングモデル(例:女性のサブ4に必要な練習量)を作成することができませんでした 。これは今後の課題と考えられます。

Q. このとおりの指標でトレーニングすれば確実に目標達成する?

いいえ。この研究は「関連性(相関関係)」を示したものであって、「因果関係」を100%証明するものではありません 

まとめ

論文が示したサブ4/3.5/3の目安は以下のとおりです。

  • 量×頻度×長さは、積めば積むほど「タイム短縮」方向(相関)。
  • サブ4:週44km/最長25km/週3〜4回
  • サブ3.5:週69km/最長31km/32km超は約3本/週5〜6回
  • サブ3:週100km超/最長36km/32km超は約8本/週7〜8回(ダブル含む)。
  • 最短ルートは「ケガゼロで淡々と」。一時的なドカ積みは不要。

本記事が、あなたの「自己ベスト更新」への一歩となることを願っています!

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本稿は原著を自費で購入($27)し、翻訳・精読のうえで実務向けに再構成しています。

出典

[1] Doherty C, Keogh A, Davenport J, et al. An evaluation of the training determinants of marathon performance: A meta-analysis with meta-regression. Journal of Science and Medicine in Sport (2020).

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