忙しい人向けの3行まとめ
・2025年11月14日、政府は関係閣僚会議で「クマ被害対策パッケージ」[2][3]を決定し、命優先+個体数削減+すみ分けをはっきり打ち出しました。
・対策は「緊急的対応/短期的取組/中期的取組」の3段階で、環境省だけでなく警察・自衛隊・文科省なども巻き込んだ体制です[2]。
・ランナー・登山者にとっては、出没情報・立入制限・現場対応の変化を知っておくことが、安全行動を考える前提になります[2][4][5]。
本記事は熊対策シリーズの第4弾です。政府の「クマ被害対策パッケージ」を軸に、最新データと政策の全体像をランナー・登山者目線で整理しています。熊対策シリーズは以下のページにまとめています。
クマ被害対策等に関する関係閣僚会議の概要
- 目的
クマ被害が各地で深刻化している中で、 環境・農水・総務・文科・国交・防衛・警察を束ねて、 「個体数削減+人命・生活の安全確保」のパッケージを決め、年度内のロードマップを作ること。
- メンバー
- 官房長官(議長)+ 環境・総務・文科・農水・国交・防衛大臣
- 国家公安委員長、官房副長官、環境省自然環境局長など
どの省庁が関わってるか
環境省と内閣官房の資料を合わせて見ると、環境省の単独施策ではなく、政府横断プロジェクト として動いているようです[1][2][4]。関係省庁の役割分担は以下の通りです。
- 環境省:クマ対策全体のとりまとめ、ガイドライン作成、交付金など
- 農林水産省・林野庁:農林業被害、防護柵・誘引物対策、林業現場の安全確保
- 総務省:ガバメントハンター等の任用、特殊勤務手当・職員の健康管理等に関する通知
- 文部科学省:学校・登下校時の安全確保、危機管理マニュアルの改訂など
- 国土交通省:道路・河川の樹木伐採やパトロールと連動した情報提供
- 防衛省・警察庁:自衛隊・警察OBの活用、警察によるライフル銃駆除を可能にする規範改正
被害状況
被害者数の推移
環境省と内閣官房の最新資料では、クマの状況が次のように整理されています[2][4][6]。
- クマの分布域が、かつてより人の生活圏周辺まで拡大している。
- 推定個体数は、ヒグマ約1万2千頭、ツキノワグマ約4万2千頭以上(中央値ベース)とされる。
さらに、令和3〜7年度の人身被害の推移を見ると、以下のことが示されています。
- 人身被害者数は、令和5年度に過去最多レベルに達し、
- 令和7年度も、人身被害件数・被害者数とも令和5年度と同水準で推移、
- 死亡者数はすでに令和5年度を上回る“過去最多”となっている

都道府県別の被害状況
都道府県別のデータを見ると[4]、
- 岩手・秋田・長野・新潟・福島など、東北〜中部の一部地域で被害が特に多い
- 北海道や他地域でも、登山・作業・日常生活圏など多様な場面で被害が発生
といった構図が浮かび上がります。

クマ被害対策パッケージの全体像
基本方針:命優先+個体数削減+すみ分け
こうしたデータを踏まえ、環境省と内閣官房はクマによる人身被害の拡大が、国民の安全・安心を脅かす深刻な事態になっているという危機認識を共有し、令和7年11月14日にクマ被害対策パッケージ(クマ被害対策等に関する関係閣僚会議決定)が正式にとりまとめられました[2][3][4]。
「クマ被害対策パッケージ(概要)」[3](下図)には、次のような基本方針が書かれています。
- クマによる死者数が過去最多を更新し、人身被害が増大・多様化・広域化している。
- 国民の命と暮らしを守り、安全・安心を取り戻すために、関係省庁が連携した総合パッケージを実行する。
- 人の生活圏に出没したクマは確実かつ迅速に排除し、その周辺では出没防止のための捕獲等を強化して個体数の削減を図る。
- 科学的な根拠に基づく個体数管理を徹底することで、人とクマの「すみ分け」を実現する。
「保護を前提に被害を抑える」から一歩進んで、「命を守るために、個体数削減も含めて管理する」方向へ踏み込んだ形です。

緊急・短期・中期のとりくみ
パッケージ本文では、施策が時間軸で3つに整理されています[2]。
- 緊急的に対応すること → すでに実行中、あるいはすぐに行う即効策。今シーズンの被害拡大を抑えるフェーズ。
- 来春に向けて短期的に取り組むこと → 数ヶ月〜数年スパンで、出没防止・個体数管理・人材確保などの「戦力と守備力の底上げ」。
- 中期的に取り組むこと → 個体数管理の仕組みづくりや森づくり、ゾーニングなど、構造を変えていく対策。
ランナー・登山者に直結するポイント
ここからは、ランナー・登山者の行動に関わる部分だけを3点に絞ります。
① 「危ない時期・場所」の事前チェック
環境省・内閣官房[4][5][6]の資料を合わせて見ると、
- 秋にかけて被害件数が増えやすいこと
- 東北〜中部の一部県で、被害が集中していること
がはっきりしてきます。熊が出没する地域で走る場合は以下の2点を習慣化するだけでも、リスクはかなり下がると思われます。
- 春〜秋の早朝・夕方に、里山・林道・農地周辺を走るときは、 都道府県や市町村が出している「クマ出没情報」「注意喚起ページ」を事前にチェックする。
- 特に被害件数が多い県(岩手・秋田・長野・新潟・福島など)では、 時間帯とルート選択を保守的にする(暗い時間、藪を避けるなど)。
② 自己防衛
ランナー・登山者側は、
- 熊鈴
- 必要に応じたクマスプレー
- 複数人での行動
- 見通しの悪い場所でスピードを落とす・声や音を出す
といった自己防衛対策は必要です。「ランナーのための熊対策」については以下の記事をご確認ください。
③ 立入制限・看板・ルール変更がこれから増えていく
今後、政府の対応が実行されてゆくと、
- 通学路・学校・公園・観光地などでの安全確保
- 河川や道路での伐採・パトロールと連動した情報提供
- 出没状況を踏まえたトレイル・登山道・林道の「通行止め」「ルート変更」
といった現場の運用変更が増えていくことが予想されますので、
ランナーとしては、
- 「急に通行止めになった」「看板が増えてうるさい」と反射的に嫌がるのではなく、パッケージの流れの中で起きている変化として理解しておく[2][4][5]。
- 大会でも、クマ関連の注意事項・コース変更・装備指定が増える可能性を前提にしておく。
こういったスタンスを持っておくようにしたいです。
FAQ
Q1. このパッケージがあれば、クマ被害はすぐ減りますか?
今回決まったのはあくまで枠組みと財源と役割分担であり、
実際の効果は、自治体や現場の取り組み・住民の行動変化に左右されます。
ただし、
- 緊急銃猟の体制整備
- 春の捕獲強化
- ガバメントハンター支援
- 防護柵や誘引物対策への交付金
など、短期で効きやすい施策も含まれているので「何もしていない」状態からは確実に前進していると言えます。
Q2. クマ被害対策等に関する関係閣僚会議のメンバーは?
「出席者一覧」PDFが公式に出ていて、構成は以下の通りです
議長
- 内閣官房長官 木原 稔
閣僚クラス
- 環境大臣 石原 宏高
- 総務大臣 林 芳正
- 文部科学大臣 松本 洋平
- 農林水産大臣 鈴木 憲和
- 国土交通大臣 金子 恭之
- 防衛大臣 小泉 進次郎
- 国家公安委員会委員長 あかま 二郎
官邸側・実務トップ
環境省自然環境局長 堀上 勝
内閣官房副長官 尾﨑 正直
内閣官房副長官 佐藤 啓
内閣官房副長官 露木 康浩
内閣官房副長官補 阪田 渉
Q3. ランナーとして、政府資料のどこから見ればいい?
まずは環境省サイトの
- 「クマ被害対策パッケージ(概要)」[3]の1枚
- 「クマの出没や被害の状況について(資料1)」[4]
この2つだけでも十分意味があります。
そこから余裕があれば、
- 「クマ被害対策パッケージ」の本文 [2]
- 「豊かな森の生活者 クマと共存するために」[7]
を合わせてチェックすると良いでしょう。
まとめ
- 環境省・内閣官房がとりまとめた「クマ被害対策パッケージ」は、 命優先・生活圏からの排除・増えすぎた個体数の削減・人とクマのすみ分けを軸にした総合対策です。
- R07年度の人身被害は、令和5年度と同水準の高いレベルで推移し、死亡者数はすでに過去最多となっており、緊急・短期・中期の3段階で「人・お金・装備・制度」を一気に動かす必要があります。
- ランナー・登山者にとっては、 出没情報のチェック/立入制限やルール変更/現場の緊急対応力の向上といった形で、 今後数年かけて影響が出てくると考えられます。
関連記事
参考資料
- 環境省 自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室「クマに関する各種情報・取組」 → クマ関連情報の総合ページ。被害データ・パッケージ・マニュアル・パンフレットなどへの入口。https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/effort12.html
- 環境省 自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室「クマ被害対策パッケージ」(令和7年11月14日、クマ被害対策等に関する関係閣僚会議決定) → 11ページの本文。危機認識・基本方針・緊急~中期の具体策・関係省庁の役割分担が書かれている。 https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/kuma-counterplan-r071114.pdf
- 環境省 自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室「クマ被害対策パッケージ(概要)」(令和7年11月14日) → 1ページの概要スライド。危機認識+基本方針+緊急・短期・中期の枠組みが一目で分かる。https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/kuma-counterplan-summary-r071114.pdf
- 内閣官房「クマの出没や被害の状況について(資料1)」クマ被害対策等に関する関係閣僚会議(第1回)資料1(令和7年10月30日)→ R3〜R7の人身被害者数推移や、R7年度の出没件数・被害状況(全国+上位県)などが整理されている。 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kumahigai_taisaku/dai1/shiryo1.pdf
- 環境省 自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室「R07年度人身被害件数(速報値)」(令和7年11月17日更新) → R7年度の人身被害件数・被害者数・死亡者数を、都道府県別・月別に整理した資料。https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/r07injury-qe.pdf
- 環境省 自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室「クマ類の生息状況、被害状況等について(参考資料1)」 → 分布メッシュの増減や推定個体数など、長期的な傾向を整理した資料。https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/kuma-situation.pdf
- 環境省 自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室「豊かな森の生活者 クマと共存するために」 → クマの習性や、遭遇を避けるための行動ルールを分かりやすくまとめた啓発資料。https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5/docs5-kuma.pdf


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