マラソン後半の失速を筋トレで防ぐ|週2回で疲労耐性35%改善

マラソンの30km以降で脚が売り切れる。そんな経験を私もしょっちゅうしています。補給やペース配分を見直しても改善しなかったこの悩みへの答えが、2025年の研究論文にありました。答えは「筋トレ」でした。週2回×10週間で疲労後の高強度パフォーマンスが35%改善したというRCT(ランダム化比較試験)の結果と、具体的なトレーニング方法を解説します。
マラソン後半に失速する本当の原因——「筋力の枯渇」という新しい視点

補給をしっかり行っているにもかかわらず、30km以降に失速するケースも少なくありません。
近年のスポーツ科学が注目しているのが「筋力の枯渇」という別の原因です。長時間走り続けると脚の筋力が低下し、正しい関節角度や推進力を維持できなくなります。エネルギー効率が下がり、同じペースを保つためにより多くの酸素を消費するようになる。
これが後半失速のもうひとつの正体です。
あきらタレる原因がグリコーゲン不足だけじゃないとは。筋力不足という視点を知って、確かにと思いました。
「耐久性(durability)」とは何か|疲労後のランニングエコノミーが崩れる仕組み

ここで、近年のスポーツ生理学で注目される「耐久性(durability)」という概念を紹介します。
耐久性(durability)とは、長時間の走行後もランニングエコノミー(RE)や乳酸閾値速度が低下しにくい能力のことです。Jones & Kirby(2023)が「第4の持久力次元」として提唱した比較的新しい概念で、従来の3指標(VO2max・RE・乳酸閾値)だけでは説明できなかった後半のパフォーマンス格差を説明するものです。
ランニングエコノミー(RE)は一定速度で走るときに必要な酸素摂取量を指し、数値が低いほど効率よく走れていることを意味します。問題は、このREが疲労によって悪化することです。長距離走で筋肉の損傷や疲労が蓄積すると省エネなフォームが崩れ、同じペースを保つために必要な酸素量が増えます。30km以降も粘れるランナーとフォームが崩れるランナーの差は、まさにこの「耐久性」の差です。
- 長時間走行後もランニングエコノミーが低下しにくい能力
- VO2max・RE・乳酸閾値に続く「第4の持久力次元」(Jones & Kirby, 2023)
- 後半のペース維持能力に直結する指標
従来の研究では、ロング走の積み重ねがこの耐久性を高めることが分かっています。しかし最新の研究が示したのは、「筋トレ」も耐久性を改善するという新たな経路でした。
週2回×10週の筋トレでTTEが35%改善——Zanini 2025論文の結果

Zanini et al. 2025(Medicine & Science in Sports & Exercise, 57(7): 1546-1558)は、訓練済み男性ランナー28名を対象としたRCTです。ラフバラ大学のZanini、Folland、Wu、Blagroveらのチームによる研究です。
参加者は通常トレーニングのみのE群と、持久走に週2回の筋力トレーニングを加えたE+S群に分けられました。介入前後に「90分間走(乳酸閾値域)+疲労後高強度テスト」を実施し、95%VO2max速度での持続時間(TTE:疲労困憊までの時間)とREの変化を測定しました。
結果は明確でした。
- 疲労後TTE(疲労困憊までの時間):E+S群 +35%延長 / E群 -8%短縮(p=0.004、large effect)
- RE耐久性(90分走後のO2コスト変化):E+S群 -2.1%改善 / E群 +0.6%悪化(η²=0.13、p=0.04)
- レッグプレス1RM:164→200 kg(+22%)
- CMJジャンプ高:0.33→0.35 m(有意増加)
- 体重:71.1→70.6 kg(ほぼ変化なし)
筋トレを加えたグループは疲労後でも高強度を35%長く維持できるようになった一方、コントロール群は8%悪化しています。RE耐久性の改善(-2.1%)は、疲れているのに走り方が崩れにくいことを意味します。
特筆すべきは体重がほぼ変化していないことです(71.1→70.6 kg)。「筋トレで重くなる」という心配は、このデータに関する限り当たりません。筋力・パワー・神経筋効率が向上したと考えられます。
本研究の限界について N=28名・訓練済み男性ランナーのみを対象としたRCTです。女性ランナーや初心者、高齢ランナーへの効果については別途研究が必要で、「同じ効果が全員に当てはまる」とは言い切れません。
30kmの壁を突破するトレーニングメニュー——種目・強度・週頻度

研究で実際に使われた筋トレプロトコルを紹介します。週2回のセッションを10週間にわたって実施し、強度は段階的に上がっていきます。
| フェーズ | 期間 | バックスクワット・シングルレッグプレス | 座位等尺性カーフレイズ | 垂直プライオ | 水平プライオ |
|---|---|---|---|---|---|
| 初期 | 1〜4週 | 3×6-8回 @80%1RM | 4×6-8回 @100%MVF | Pogo jumps 3×10-12 | Hop and stick 3×6 |
| 中期 | 5〜7週 | 3×5-6回 @85%1RM | 5×4-6回 @100%MVF | Drop jumps 3×6 | Stiff leg bounds 3×10 |
| 後期 | 8〜10週 | 3×4-5回 @90%1RM | 5×4-6回 @100%MVF | Drop jumps 3×6 | Bounds for length 3×8-12 |
3つのポイントを押さえておきます。
1つ目は「負荷の高さ」です。80%1RMから始まり90%1RMまで漸増する「最大筋力系」のプログラムで、軽負荷の筋持久力トレーニングとは異なります。1RMとは「1回だけ挙げられる最大重量」のことです。
2つ目は「プライオメトリクスとの組み合わせ」です。最大筋力種目にジャンプ・バウンド系を加えることで筋腱の弾性エネルギー活用を高め、接地時のエネルギーロスを減らします。ランニングエコノミーの改善に直結するアプローチです。
3つ目は「週2回という頻度」です。ランニングと並行できる現実的な頻度で効果が確認されています。
- 負荷は80〜90%1RMの「最大筋力系」。軽負荷では効果が出にくい可能性がある
- 最大筋力種目+プライオメトリクスの組み合わせが鍵
- 週2回×10週間という継続性が結果を生む
ランニングと筋トレの両立——市民ランナーへの実践ガイド

筋トレをどの日に入れるかは、「ポイント練習の日に合わせて済ませ、翌日を回復日にする」方法と「ランオフ日に実施する」方法の2択が現実的です。走りへの干渉を最小限にしたいなら後者が始めやすいと思います。
器具が必要なバックスクワットやレッグプレスにはジムが欠かせませんが、スプリットスクワット(片脚スクワット)やブルガリアンスクワットなど自体重で負荷を高める種目から入る選択肢もあります。ただし本研究は高負荷(80〜90%1RM)の器具トレーニングで得られた結果です。自体重で同等の効果が得られるかは確認されていません。
筋トレ開始後は走行パフォーマンスが一時的に落ちることがあります(疲労干渉効果)。重要レースの直前ではなく、シーズンオフ・準備期から導入して10週間かけて適応させることが望ましいです。
まとめ——後半失速を防ぐために今日からできること
- 後半失速の一因は「筋力由来のランニングエコノミー低下(耐久性の低下)」
- 耐久性(durability)とは疲労後もRE・乳酸閾値速度が維持される能力(第4の持久力次元)
- 週2回×10週の最大筋力+プライオメトリクスで、疲労後TTE +35%・RE耐久性 -2.1%改善(Zanini et al. 2025)
- 負荷は80〜90%1RMの高強度が重要。体重増加は観察されていない
- 重要レースの前ではなく、シーズンオフ・準備期からの導入が推奨
後半に失速しないランナーへの近道は、走ることだけを積み上げることではないかもしれません。週2回、少し重いバーベルを担いでみることが、30km以降の景色を変える可能性があります。
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