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あきら
50代サブエガランナー(PB 2:46:27)
2025年に早期退職し、現在はランニング関連の活動をライフワークにしています。

加齢による伸び悩みから「根性論」を脱却。ゼッケン・ウェアの空気抵抗の低減、ドラフティングを活用した走り方、カフェイン戦略など、微細な改善の積み重ね「マージナル・ゲイン」による進化を信条としています。

当ブログでは、エビデンスに基づく最新のランニング科学を、市民ランナーの視点で噛み砕いて発信。「賢く、科学的に速くなりたい」あなたの挑戦を、理論と実践の両面からサポートします。

マラソン補給食の新常識|科学が証明した”1時間120g”戦略

マラソン補給食の1時間120g戦略を科学的根拠で解説する記事のアイキャッチ

「1時間60〜90g」という補給の常識が、2025年の最新論文によって塗り替えられつつあります。エリートランナー8名を対象とした実験で、1時間120gの糖質摂取がランニングエコノミーを3.6%改善することが確認されました(Ravikanti et al. 2025)。この記事では論文の内容を正確に解説し、市民ランナーが実践に落とし込むための現実的な視点をお伝えします。

目次

現在の補給食ガイドライン:なぜ60〜90g/hが推奨されてきたのか

アメリカスポーツ医学会(ACSM)の現行ガイドラインは、2.5時間超の持久性運動で複数糖質の組み合わせを使う場合に最大90g/hを推奨しています。この上限の根拠は腸管の吸収能力です。

グルコース単体では約60g/hで吸収が頭打ちになりますが、フルクトースを加えることで90g/hまで引き上げられるというのが従来の理論的根拠でした。「それ以上摂っても吸収しきれない」「GI症状(胃腸トラブル)が増える」という懸念が、90g/hの壁を作ってきました。

エリートランナー8名が証明:120g/hでランニングエコノミーが3.6%改善

スポーツ科学実験室でランニング中に酸素摂取量を計測されるエリートランナー

リバプール・ジョン・ムーアズ大学のRavikanti et al.(2025)がJournal of Applied Physiologyに発表した研究です。

研究の概要
  • 対象:エリート男性マラソンランナー8名(平均PB 2時間22分54秒)
  • デザイン:二重盲検ランダムクロスオーバー(3条件)
  • プロトコル:120分走(LT95%強度で最初と最後の15分・LTP94%で中間90分)
  • 条件:60g/h(マルトデキストリン単体)・90g/h(グルコース:フルクトース=2:1)・120g/h(グルコース:フルクトース=1:1)

※ マルトデキストリンはグルコースの重合体で、消化後はグルコースと同じSGLT-1経路で吸収されます。本記事では「グルコース系」と表記します。

主要結果まとめ
  • O₂コスト:120g/h条件で60g/h比3.6%低下(p=0.024)
  • 血糖値:120g/h条件で有意に高値(5.94 vs 5.13 mmol/L)
  • GI症状:全条件で発生。120g/hで最大だが、運動停止を要する重篤例なし
  • N=8のエリート男性のデータ。市民ランナーへの直接適用には留意が必要

主要結果として、120g/h条件は60g/h条件よりO₂コストが3.6%低下しました(p=0.024、Cohen’s d=1.18)。O₂コストが下がる=同じペースで消耗が少なくなる、ということです。ただし、本研究は量と比率が同時に変動しており、純粋な「量の効果」だけを切り出したものではない点も理解しておく必要があります。

なぜグルコース:フルクトース=1:1が最大効率なのか

120g/h条件でフルクトース比率が高い設計になっていたことが、吸収量の増加に寄与した可能性があります。グルコース(SGLT-1)とフルクトース(GLUT-5)が独立して働くため、1:1比では両トランスポーターをフル活用できます。¹³Cトレーサーで確認した外因性CHO酸化量も120g/h条件で最大であり、より多くの外部糖質が実際に燃料として使われていたことが確認されています。

現行の主要製品では、Maurten Gel 100がグルコース:フルクトース=0.8:1を採用しており、今回の研究条件(1:1)に最も近い設計です。Maurtenはマルトデキストリンではなく純粋なグルコースとフルクトースを使用しており、これがヒドロゲル技術の前提となっています。

市民ランナーの現実問題:GI症状と腸管トレーニング

最も重要な注意点は、参加者が平均PB 2時間22分のエリート選手だったということです。彼らの消化管は日常的な高量摂取に適応済みと考えるのが妥当で、一般の市民ランナーが同条件を試みると高い確率でGI症状が出るでしょう。

「腸管トレーニング(gut training)」と呼ばれる、消化管を高量摂取に慣らすプロセスが前提として必要です。週に2〜3回のロング走でレースを想定した量と頻度での補給を繰り返し、数週間〜数ヶ月かけて腸管を慣らしていきます。

あきら

いきなりレースで試すのは禁物です。まず練習中に60〜75g/hから始め、GI症状がなければ少しずつ量を増やしていく方法が現実的です

世界記録1:59:30でも実証:サウェはレース中115g/hを摂取した

2026年4月26日のロンドンマラソンで1時間59分30秒の世界記録を樹立したセバスチャン・サウェ(ケニア)は、Maurtenの栄養スタッフが設計したプロトコルでレース中平均115g/hの炭水化物を摂取しています(Citiusmag, 2026)。論文が示した120g/hに限りなく近い数値です。

Maurten Drink Mix 320とGel 100を組み合わせたプロトコルで、ヒドロゲル技術が消化管への負担を抑えながら高量摂取を可能にしたと考えられます。「研究室の理論」が「世界最速の現場」でそのまま実践されていた、ということです。

ロンドンマラソンで世界記録を出した時のセバスチャン・サウェの補給プロトコル
ロンドンマラソンでのセバスチャン・サウェの補給プロトコル

フルマラソンのジェルは何個?サブ3〜サブ4別のタイミングと個数

以下はACSMガイドライン(最大90g/h)・ジェル1袋あたり糖質約25gをもとに私が試算した目安です。個人差・製品差があるため、あくまで計画の出発点としてお使いください。腸管トレーニングが十分でない場合は60〜75g/hから始めることを推奨します。

タイム帯別の補給目安(腸管トレーニング済みの前提・あきら試算)

スクロールできます
走力最初のジェル以降の頻度合計目安
サブ3スタート後20〜30分15〜20分おき5〜7袋
サブ3.5スタート後30分20〜25分おき5〜7袋
サブ4スタート後30〜40分25〜30分おき5〜6袋

カフェイン入りジェルはスタート後60〜75分以降(終盤の追い込みに備えて残す)の使用が効果的という報告があります(Guest et al. 2021)。ただし感受性に個人差があるため、練習で事前確認を。

今日から使えるおすすめ補給食:グルコース:フルクトース比で選ぶ

グルコース・フルクトース比に注目したマラソン補給ジェルの選び方イメージ

製品を選ぶ際に注目すべきはグルコース系とフルクトースの比率です。成分表示で「フルクトース」「果糖」が上位に来る製品が、複数トランスポーターを活用した高効率な設計です。

Maurten Gel 100

デンマーク発のスポーツ栄養ブランド。1袋25g(グルコース:フルクトース=0.8:1)。マルトデキストリンを使わず純粋なグルコースとフルクトースを配合し、ヒドロゲル技術でGI症状を抑えながら高量摂取を可能にしています。サウェーが世界記録で使用したのもこのMaurtenです。

カフェイン入りはこちらです

ハイドロジェルで飲みやすい高含有。 

GU Energy Gel

アメリカのロングセラーブランド。マルトデキストリン(グルコース系)とフルクトースを配合した双方向吸収設計で、単一糖質のジェルより多くの糖質を吸収できます。オレンジ味にはカフェイン20mgが配合されています。

腸管トレーニング開始期:Medalist エナジージェル

マルトデキストリン主体でフルクトース比率が低く消化負担が少ないため、練習中の補給習慣を作る入口として使いやすい国産品です。慣れてきたら比率の高い製品に移行していく段階的な方法も有効です。

まとめ

Ravikanti et al.(2025)は、エリートマラソンランナーにおいて120g/h(グルコース:フルクトース=1:1)の摂取がランニングエコノミーを3.6%改善することを示しました。現行ガイドライン(90g/h上限)を見直す根拠となる重要な知見です。ただしN=8のエリート男性限定のデータであり、市民ランナーには腸管トレーニングが前提となります。まず60〜75g/hから始め、練習の中で消化管を慣らしながら徐々に量を増やすことが現実的なアプローチです。

📘 科学を「知る」から「使う」へ

MSSでマラソンコースの高低差をシミュレーションするイメージ

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参考文献

  1. Ravikanti S, et al. “13C-labelled glucose-fructose show greater exogenous and whole-body CHO oxidation and lower O₂ cost of running at 120 versus 60 and 90 g·h−1 in elite male marathoners.” J Appl Physiol. 2025;139(6):1581-1595.
  2. Citiusmag. “Sebastian Sawe Marathon World Record Recap – London 2026.” Citiusmag, 2026. https://citiusmag.com/articles/sabastian-sawe-marathon-world-record-recap-london-2026
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